11月26日(日)・雨
06:00起床
北九州の実家に11:00までに行かないといけない用事があるので遊んでいる余裕は無い。銃も持たず猟装も着用せずに、ワンコの運動に出発。
「ややま」山麓の田口の谷の林道の一つに入り駐車。
それぞれ音色の違う鈴を付けた首輪を各犬に装着し、いつものように放犬する。
鈴を付けるのは、他のハンターに誤って撃たれないためと、俺自身が犬の動きを把握するため。
ウチの犬達のような単独猟向きの犬種は行動半径が最大に伸びても200~300mだから鈴の音色だけでナンとか犬の行動を把握できるが、ハウンド等の獲物の足跡の臭いを追う洋犬種は、一山でも二山でも執拗に追跡するので鈴なんか付けても無意味。専用の無線発信機と受信機と方位探知機というハイテク兵器で、犬の動きを把握しなければならない、グループ猟向きの犬種ということになる。
俺みたいな単独ハンターが、こんな犬を使ったら、犬の回収だけで2・3日はかかって家にも帰れない・・・・・「鈴」というローテクが好きだ。道具が多いのも人間が多いのもメンドクサイ。
狩りは、なるべく原始的にやったほうが、やり甲斐がある。
話は戻る・・・・・犬達の気ままな運動に付き合うために車窓を全開にして犬の鈴の音を聴きながら超低速でトロトロ流す。
たまに犬が何かの匂いに反応して山中深くに進むと、その場で駐車して犬の動きを推測しながら犬の帰りを待つ。これを2時間ほど繰り返すのが日課のようにと言うか、これが我が家の犬の散歩のスタイルになってしまった。
07:30 アンパンマンのような呆けた顔をして朝飯代わりのアンパンを食いながら缶コーヒーをすすりつつ車を流していると、犬達が普段には無いような緊迫した反応で杉林の中に突進して行った。
何か起きそうな予感に、慌ててアンパンを放り出して車を停めて車外に出る。
末っ子モモが激しく吠え出した・・・・・・何かの大きな生き物の存在がないと激しく吠えたりはしないモモが、ここまで吠えるとは・・・・・猪か鹿か??・・・・・・緊張が走った。
モモが吠えている場所まで50mほど・・・・・・近寄り、様子を窺がうが倒木の陰が死角になって何も見えない。
レトリーバーのディーディーはドンクサイので猪との格闘は無理。
ディーディーを呼び寄せ車の荷室のケージに入るように指示し車中に待たせてモモのほうへ戻る。アレルギー性の鼻炎なので、鼻の通りが良くなり匂いに敏感になれるように点鼻薬の「ナザールスプレー」を鼻の中にブチ込む。
モモが吠え立てている「何か」のほうに目を凝らす。何も見えないが、猪独特の体臭が俺の鼻にも、かすかに漂ってきた・・・・・間違いない!猪や!・・・・・俺は勇み立ったが、銃を持って来てないことを思い出し愕然とする。
こんな時に限って銃が無いとは・・・・・・俺の馬鹿~!
気を取り直し、再度車に戻り車内を見回すとナイフと弾薬ポーチ等を装着したピストルベルトだけが積みっ放しだったのに気付き、それを素早くズボンの上から巻き、モモ達のところに駆け戻る。
万一の護身用と止め差し用に携帯しているコールド・スティール社製の刃渡り23cmのボウイ・ナイフ「トレイル・マスター」を鞘から抜いて更に近づいた。
銃が無いんなら仕方がない・・・・・・・ボウイナイフと竹の切れ端とガムテープで即席の槍でも作って、モモ達が猪を噛み止めてくれたら猪の横っ腹に踏み込んで刺殺しよう・・・・・・覚悟を決めてモモ達のところに近づく。
モモは相変わらず激しく吠えているがハヤテは一声も吠えずモモの横で微動だにしない。
猟装で来ていなかったことを思い出し、着ていたMA-1ジャケットを裏返しにしてオレンジ生地が表になるように着直した。
もしかしたら、他にグループ猟等で入山し銃を構えている者が居るかも知れない・・・・・暗い色の服装でガサゴソしていたら猪に誤認されて撃たれてもおかしくはない。それに今日は日曜日だし、特にハンターが多いだろう。
自分の身は自分で守るべし・・・・・・
オレンジのMA-1を着てボウイナイフを携え、独特の獣臭の発生源へ歩み寄る。
ようやく見えた!茶褐色のタテガミを逆立てた猪!大物や!
倒木の陰で、荒い息づかいで牙をカチカチ鳴らし、モモとハヤテを威嚇している。猪が威嚇のために突っ込む素振りを見せるたびに犬達は数歩退き一進一退の攻防を繰り広げている。
ウチの犬は、まだまだ若いから猪との格闘に慣れていないので、ぶっつけ本番である。
さすがに猪のほうが遥かに大きいので、犬達は格闘するまでの距離に近づけない。
しばらく攻防を観察していると、どうも猪の動きがおかしい・・・・・・あれだけ大きな猪なら、わずか20kgそこそこの紀州犬など蹴散らしに突っ込むはずだが、円を描くように動いている・・・・・・・
それを見てピンと来た。そうか、罠に掛かっとるんや!
良く見ると案の定、後ろ足がワイヤーの括り罠に拘束されている。
一気に戦意喪失した・・・・・あんな捕らわれのものを仕留めるのは卑怯である。
個人的な主観だが、そう思った。
確かに罠のほうが、それほど苦労せずに効率良く数多くの獲物が獲れる。地元でも鉄砲撃ちより罠師の数のほうが多いくらいだ。
だけど俺は罠は卑怯な感じがして嫌いだ!!
あれだけ大きな猪なら、罠に掛かった以上、素直にワイヤーを人間に外させてくれるはずが無い。
待っているのは、間違いなくワイヤーが掛かったままの拘束状態での「死」あるのみ・・・・・・・・・・・まさに屠殺・・・・・・
恐らく昨晩か、そのまた前の晩くらいから罠に掛かって苦しんでいるはず。
罠師は鉄砲を所持していない者が多い。
掛かった獲物は、大抵は撲殺か刺殺である。
急所を狙って銃殺する一瞬の死というものを、あの猪は恐らく迎えられないだろう・・・・・
罠猟も銃猟も同じく生き物の命を奪う殺生だが、何故か心が痛む。
銃で殺生する俺なのに、手前勝手な倫理だが・・・・・心が痛む。
俺が銃を持っていたら、罠の所有者には悪いが、無断で間違いなく銃殺して楽にしてやったと思う。
俺は罠の免許も持っているが、単独の銃猟に拘りたい。
獲れなくても良いのである(農業・林業の皆様すみません)。
獲物との知力を尽くした駆け引きこそがハンティングの醍醐味だと思うから・・・・・・
非力な人間だから、銃と言う圧倒的に有利な武器を使い、犬の優れた嗅覚と五感を借りる形で猟を行う以上は、獲物にも逃げたり逆襲するチャンスがあって当然と思う。
これは鉄砲撃ちとしての自身の掟であり美学である。
血走った目で苦しむ猪に「すまん」と一言声を掛け、現場を後にした。
猪の体臭を洗い流すように、雨は相変わらず降っていた。
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写真は括り罠に掛かった猪の足。ワイヤーに掛かった部分が擦り剥けて腫れている。
酷い時は、自分の足を噛み千切って逃げる猪もいる。
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